思い出

スポットライトを浴びる瞬間

スポットライトを浴びる瞬間

 

 

一番輝くとき

まるでオリンピック選手のようにスポットライトを浴びる瞬間が、誰にだって人生の中で一度くらいは訪れることがあるといわれています。

善ちゃんは某企業の敷地の広い工場内での工事現場でそれは訪れたのでした。

その日、彼は敷地面積がとても大きな企業の工場内のプレハブにエアコンを取り付ける工事をしていました。

仕事も順調に進み、昼までに終わりそうでもあったが、午後からの作業予定がなかったため、ランチを工場の外にあるカレー屋に入り、激辛カレーと紅茶を注文した。

カレーを食べた後は、砂糖たっぷりの紅茶を飲み干して店を後にしました。

その後に、工場の現場に戻り、広い構内を探索していたそうです。

店を出てから1時間ぐらいが過ぎた頃でしょうか、善ちゃんはお腹に微かな違和感があったのを見逃さなかった

先ほど食べたカレーの香辛料と紅茶にいれたたっぷりの砂糖が、腸の中でバトルしているような激しい感じになったというか・・・つまり、トイレに行きたくなったようです。

 

作業に取り掛かる前でよかった。

 

こういう時は少しでも前兆を感じたなら、我慢したりせずに近くのトイレに駆け込むことが鉄則です。

 

山登りと同じで、危険を察知したら無理をしてはいけません。

 

彼は過去の経験から冷静に判断をして近くのトイレへと向かいました。

 

ここでグズグズしているようではダメです。

 

幸い、見えるところにトイレがありました。そう、目的地はすぐ目の前です。

この広い構内ではトイレが見つからないことはよくあるのでラッキーです。

男子トイレに入ってみると、そこには蟻のように行列ができていました。

 

選択肢は2つです。

「大人しく列の最後尾に並ぶ」のか、それとも「別のトイレを探して旅に出るか」です。

 

 

ここでもグズグズしているようではダメです。

彼は別のトイレを探すことにしました。

かつて坂本竜馬は、「たとえドブの中でも、倒れるときは前のめりに倒れたい」と言ったそうです。

もし、坂本竜馬がこの行列の最後尾に並んでいたなら、やはり別のトイレを探しに旅立ったことでしょう。咸臨丸でアメリカを目指したように。

 

彼は、薄っすらと額に浮かんだ汗を拭うと、速やかに別の敷地への移動を開始しました。こんな時は駆け足です。

タイムリミットに向かって無常なカウントダウンを続ける爆弾をお腹に抱えて、善ちゃんはヨロヨロになりながら駆け足で走りました。

次のトイレの個室が空いているといいのですが、一抹の不安が彼の脳裏に浮かんだ

ようやく次のトイレを見つけ、即座に中をのぞくと、そこにはまた行列が!

 

彼は心の中で叫んだ、彼の心の叫びはこうです。

っていうかなぁ、お前ら、いい加減にしろや! なんやねん、その死んだような表情は!

やる気がないなら今すぐ家に帰れや!

こっちは遊びでウ○コしたいわけじゃないねん!

マジなんじゃ!

やる気まんまんで今にも顔を出しそう!

中途半端な気持ちのヤツはとっとと帰ってくれ!

 

彼は青ざめた顔のまま心の中で毒づくと、再び違うトイレへと足を進めました。

 

限界の時が近づいています。

 

本当にかなりヤバイです。

 

もし、次のトイレの個室に空きがなければ、もうダメです。

 

後悔先に役立たず。こんなことならカレー屋のトイレで用を済ませておけばよかった。

カレー屋で大便はあかんといった、変なこだわりをもったばかりに。

 

幸運にも次のトイレもすぐに見つかりました。駆け足でトイレに向います。

あと、100メートルでトイレです。

 

果たして個室は空いているのでしょうか!?

 

どうか空いていますように! 

トイレに飛び込むと個室は空いていました。

助かりました。

 

彼は最後の力で個室の扉を押しました。

和式トイレだったが、贅沢に選ぶ猶予はもうない。

彼は扉を背にしてすばやく便器にしゃがみました。

しかし、まさに処理にとりかかろうとしたその瞬間、彼のお尻にトイレのドアが勢いよくぶつかったのです。

 

えっ?

なんで?

こんなタイミングで?

なんか、おかしくない?

 

一瞬なにが起きたのか把握できないまま背中を振り返りました。

ドアが開いている!

もうろうとしていたので、鍵をしっかりとかけていなかったのです。

開いたドアの向こうには、工事現場のおっさんが目を見開いて立っていました。

涼しげな外の風が、からかうように彼のお尻をそっと撫でていきます。

また、おっさんも硬直したまま視線をそらしません。

 

「あっ、どうも」

 

彼は尻を向けたまま、そう声をかけてドアを閉めました。

でも、座ったまま身体をねじった体勢では、ドアを閉めることはできても、ギリギリのところで鍵に手が届きません。

いや、かろうじて指先で触れることは出来るけど、その鍵を閉める力が入りません。

このトイレは、鍵を閉め忘れてしゃがんでしまった人のことを考慮して設計していないのです!

彼は上半身をさらに捻って、右手を伸ばせるだけ伸ばして鍵をかけようとしました。

もう少しで指先が鍵爪の部分にかかりそうです。

 

あと、もう少しです。

 

さらに背骨を反らして、プルプルと震える指先を更に伸ばしました。

 

あっ!

 

あまりに上半身を反らしすぎたせいでバランスを崩し、彼は後ろに倒れてしまいました。

 

倒れる瞬間、とっさに身体をささえるために、左手をトイレの床につきました。

 

しかし、本能的に「汚い!」という意識が働いたのでしょう、その手はベッタリと床にはつかずに、5本の指先だけで身体を支える形になっていたのです。

 

右手はドアを押さえ、左手は身体を支えています。

ん?このポーズはどこかで観たことがあります。

 

そうです。

トリノオリンピックで荒川静香さんが魅せた“レイバック・イナバウアー”です。

競技では決して加点されることのないイナバウアーを彼女が敢えて取り入れつつ、金メダルを獲得したあの技です。

ルールに縛られて自分らしさを失うより、人々の記憶に残るスケーターになりたいと強く思ったからだと語っていました。

 

そう、彼は、荒川静香さんになっていたのです。

ということは、彼の人生で一度はスポットライトが当たる瞬間がよりによって今なのか?

まさか、こんな形でオリンピック選手の金メダリストみたく輝く瞬間がくるなんて。

しかも、それを誰もみていない個室で迎えてしまうなんて。

彼は、今後絶対に迎えることのない唯一のスポットライトが当たる瞬間がこんなところで使い果たしてしまうなんて、すごく損した気分。

 

だんだんと体重がかかった左手の指が痺れてきます。

しかも、まだ爆弾処理も終わっていません。

 

右手を離すとドアが開いてしまうので離すことはできません。

それに、外で待っているおっさんがこの体勢を目にしたらどう思うことでしょう?

こうなったら床にたてている左手の指に力を入れて、勢いと反動で身体を元の位置に戻すしかありません。

 

しかし、それは危険な賭けです。

 

もし失敗したら、さらに体勢を崩して”便器に尻ペッタン状態”となり、泣くに泣けない悲惨な事態へと突き進むことでしょう。

でも、彼は荒川静香です。

扉の向こうで待つおっさんのためにも無事に生還せねばなりません。

もし、荒川静香が便器にはまってビショビショの状態でトイレから出てきたら、おっさんの夢を壊してしまいます。

体勢を立て直すチャンスは一度だけです!

彼は深呼吸をすると、全身の力を右手の指先に込めて反動をつける準備をしました。

 

いち ・ にー ・ さん

 

指がズキっ

ちょっと、やばかったけど、ギリセーフです。

 

でも、なんとか体勢が整えました。

 

彼はすぐさま鍵をかけると、暴発直前となっていた爆弾処理にとりかかったのです。

コトを終えてトイレの扉を開けると、さっきのおっさんがまだ立っていました。

 

おっさん:「にいちゃん、エアコン付けに来てる人ちゃうん?」

知られてる!

彼は”ニコッ”と笑みを浮かべ、なにも語らずにトイレを後にしたのです。

 

“font-size: medium;”>”Every dog has his day.”というアメリカのことわざがあります。

直訳すれば「どんな犬でも輝くときがある。」

つまり、どんな人にも、その人が最も輝く時があるって意味です。

 

 

 

 

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