考え方

白いTシャツの真犯人


先日、以前から気になっていた「マスカレード・ホテル」という映画を見ました。
そのホテルで殺人事件が起きる可能性が高いとして、刑事がホテルに潜入捜査するもの。
犯人の逮捕を最優先する警察と、お客様の安全を最優先するホテル従業員と相反する者が協力するという、とても興味深い映画でした。
この映画を見ていて、なんとなく思い出したのが「毒物カレー事件」
今もなお大量殺人を行った何者かが何食わぬ顔で暮らしているかもしれないと思うと、とても恐ろしい話です。

毒物カレー事件の概要

1998年7月 和歌山県某所の夏祭りでその事件は起きました。
カレーを食べたものが次々に吐き気や体調不良を訴え倒れました。
被害者は67名(うち未成年者は30名)
大人2名、子ども2名の死者がでた悲惨な大事件でした。
その後の調査で、カレーから毒物のヒ素が検出されたことにより殺人事件と断定されました。
その時、容疑者として捕らえられたのが林真須美。
なぜ林真須美が容疑者として捕らえられたのかというと、ヒ素が林真須美の家から持ち出されたものだと考えられたからです。

林真須美の保険金詐欺事件

1988年(事件の10年前)、林真須美の母の死で下りた保険金3千万円を夫の健治が使い込んだという。
林真須美が夫の健治に追及したところ、なんと「もう一度保険金を受け取ればいい」と言い出した。
その時から、夫婦で保険金詐欺師としての生活が始まりました。
体調不良を意図的に引き起こすために、夫の健治はヒ素を自ら飲み始めた。

ヒ素は毒性の強い物質で、飲むと吐き気や下痢、腹痛などの症状がでる。

夫の健治はシロアリ駆除の会社を営んでおり、ヒ素を日常的に駆除で使用していたので、業務上の事故によるヒ素中毒と偽った。
こうして最初の計画は成功し、夫婦は多額の保険金を手にした。
味を占めた夫婦は、それから保険金詐欺を繰り返すようになりました。
夫以外にも協力者は増え、その10年の間に6人、合計20回以上に渡る保険金詐欺が行われた。
この詐欺は、林真須美が元保険外交員だったから上手くできたと言われています。

そんな背景で起きたのが毒物カレー事件

使われていたの毒物がヒ素だったこと、カレー作りの担当であったことから林真須美が容疑者として逮捕されました。
逮捕された林真須美は、殺人容疑は気にしていなくて、保険金詐欺で捕まらないかを常に心配していました。
実際にやっていない殺人については、すぐに疑いが晴れると思ったいたようです。
実際、林真須美が殺人を犯した証拠がありませんでしたし。
警察は、かなり強引に林真須美を犯人として決めつけた捜査を行ったことがわかっています。

林真須美が何度も保険金目的で殺人未遂を企て実行した人物だと断定。
受け取った保険金を分け合った人々は共犯ではなく知らないうちに林真須美に毒を盛られただけだと決めつけた。

その被害者には夫の健治も含まれていたため、健治は「わしは自分でヒ素をのんだんや!」と証言もしています。
警察の筋書きを見ると…

夫の健治は知人にヒ素を盛って保険金を受け取りつつ、自分が林真須美に4度もヒ素を飲まされても気付かず生活していたことになる。

この筋書きを見て、こんな話がありえるかどうか考えてみてほしい。

マスコミの印象操作

この状況証拠のみで死刑が求刑された疑惑の事件ですが、これに関与しているのがマスコミです。
記者が林真須美宅に押し寄せて、林真須美を怒らせるような発言を繰り返した挙句、それに腹を立てた林真須美が記者に水をかけました。
記者は、この瞬間を待っていたかのようにこの場面を繰り返し報道し、見るからに怪しいと世間にアピールしました。
この印象操作により、世間の林真須美に対する印象は悪いものに歪めていきました。
もしかして、真犯人はマスコミの上層部に関係している人だったのかもしれません。

食い違う目撃証言

この事件は、目撃者の証言に食い違いが多く、証言では白いTシャツの女性がカレー鍋の前に一人でいたことが語られていました。
しかし、林真須美は、黒いTシャツを着て娘と二人でいました。

ヒ素の鑑定

唯一の物的証拠であるヒ素が林真須美の家から持ち出されたものだと断定された件。
鑑定を依頼された機関は、カレーに混入されたヒ素と現場に残された紙コップに付着したヒ素、そして林真須美の家にあったヒ素が同じ場所で同時期に作られたものであることを証明しました。
ヒ素は殺鼠剤(さっそざい)や農薬など広い用途で使われるものなので、この証明で明らかになった同一起源のヒ素とは、無数にいるヒ素の所有者をある時期にある場所でヒ素を購入した者に狭める程度の意味しかもたないことをいっているのです。

この調査結果を決定的な証拠として林真須美は死刑の有罪判決を下されてしまった。

後に、同機関の追加調査によってカレーに混入されたヒ素と林真須美の家のヒ素は別物であると証明されたが、それでも有罪判決が覆ることはなかった。
この鑑定結果が唯一の物的証拠だったのに、この事件には疑惑が多すぎるのです。

ちなみに、毒物カレー事件にも携わった和歌山県内の科学捜査研究所の元主任は、証拠を捏造していた疑いで2013年に起訴されています。毒物カレー事件の捏造について追加の調査が行われましたが、捏造はなかったとの結論になりましたが、警察側が更に疑わしく思えないでしょうか。

林真須美には動機がない

林真須美は保険金詐欺については認めています。
林真須美の証言によると「お金目当てで、相手も同意の上でヒ素を飲ませていたが、今まで誰も殺していません。」
常識的に考えれば、林真須美が大量殺人を企てる理由がどこにもないわけです。
裁判所の見解として「動機が解明されていないことは被告が犯人であるという認定を左右しない」だそうな。

さいごに

この事件は、状況証拠のみで、動機もなく、本人が容疑を否認し続けているにも関わらず有罪判決を受け、死刑を求刑されました。
確かに林真須美が怪しいことは認めます。ヒ素を使って保険金詐欺を繰り返していた犯罪者でもあることも事実。
でもね、林真須美が無実だったとすると真犯人がいるはずなんです。
ということは、和歌山には、あの時、白いTシャツを着て、一人で鍋の前にいた真犯人がいることになります。
事件は無理やり解決するのではなく、ちゃんと解決してほしいと願うばかりです。


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