祭りに縁のない男
私は、人が多いところが苦手で、お祭りには近づくことはしませんでした。
テレビで祭りの様子を見ても、なぜあんなに盛り上がれるのかがさっぱり理解できませんでした。
高校生になってからも、近くで祭りがあっても全く心が踊ることはありませんでした。
同級生の西くんはお祭りが大好きで「太鼓の練習や」と言いながら稽古に行っていました。
面白半分で西くんの稽古を何度か見に行ったことがあります。
太鼓練習を見学してみると、それはすごくハードな練習で、それはもうボロカスに怒られ、半泣きで練習しているのを見ていて、これのどこが楽しいのか意味不明でした。
祭りに理解のない男
大人になってから戸建てに住むようになると、すぐ近くに神社がありました。
普段の神社はもの静かで子供が遊ぶこともないので静まり返っています。
そんな様子だったので自宅の近くに神社があることは、さほど気にすることなく、むしろいい雰囲気だとさえ思い、その場所を選びました。
ただ年に一度の秋祭りは例外でした…
私が住んでいる地域では毎年10月の中旬に秋祭りが行われます。
祭りは2日間ですが、準備(練習)期間が2週間あります。
その2週間の間、夜の間ずっと太鼓蔵で太鼓と囃子(歌)の練習をしています。
太鼓蔵は結構家の近くにあります。
人の家の近所で、ひたすら大声で囃子(はやし)を歌いながら太鼓をたたくわけです。
祭りに理解のない私にとっては騒音被害でしかありませんでした。
祭りが嫌いになる男
祭りの当日になれば、私の家の近所では大量の自転車で埋め尽くされ、車も自由に出せない状態になります。
しかも花火や果物が家の周りに散乱します。
時々家にもミカンやりんごが入ってきて、祭りがマジで嫌いになっていました。
だから、近所で行われる祭りにも関わらず見にも行きませんでした。
祭りに理解のない私は、自転車を止めさせないように対策し、太鼓の音が少しでもマシになるように壁を作ったりしました。
その結果、私の家は要塞のように高い壁で覆われるように変化することに・・・
近所の人からは「豪華な壁ですねぇ」って言われましたが、内心「こいつ大丈夫か?」って思われていたのかもしれません。
私は近所の人からは社交的と言われるので閉鎖的な家だとは思われていないはずなんですが。
祭りだからって、家に果物を投げられてヘラヘラ笑って楽しめるわけありません。
ほんと「祭り」って大嫌い!
神輿の乗り子
ふと気が付けば自分の息子が神輿の乗り子になれる年齢になってきました。
私の息子は、そんなに活動的な子どもではなかったので最初は乗り子に興味を示しませんでした。
私が一切祭りに関わってこなかったので、祭りで何が行われているのか気にはなっていました。
なので子どもに言いました。
「いやになったらすぐに帰ってきていいから、一度参加しておいで」(ほぼ偵察部隊)
参加するのに5000円のお花代が必要ですが、そんなことは構いません。
乗り子が出来るのは小学校5・6年生の2年間のみ。
※地域によって違います。
後で「参加しておけばよかった」なんて思うかもしれないので、お花代が無駄になってもいいから参加させました。
息子の太鼓練習の初日
いやーなんて身勝手なんでしょうか、いつもはただうるさいだけの太鼓練習ですが、自分の息子がやっていると思うだけで全くうるさいとは思いませんでした。
そして、途中で帰ってくるかもしれないと思って家で待機していたら、なんと最後まで練習に付き合い、帰宅した時にはいい意味で顔付きが変わっていました。
どうも、かなり気に入ったみたいで「神輿に乗る!」と言って張り切っていました。
私と違って荒々しいおっちゃんばかり、しかもガンガンに怒鳴られているのに、なにが楽しいのか全く理解できませんでしたが、息子には荒々しいおっちゃん達が非常に新鮮だったようです。
祭りの当日
乗り子の保護者は巡行にお供することになっていたから私も参加せざるを得ません。
私は空気のように自分の気配を消して神輿についていきます。
神輿が巡業中は、お花を出してくれた家の前で停止し、囃子を歌いながら太鼓をリズムよく叩きます。
荒々しい人たちのそれは遊びではなく真剣そのもの。
その中で私も、やるからには中途半端なことはできません。
わからないなりに真剣に祭りに取り組んでいるフリをしていました。
最初フリだったのが、だんだんマジになってきました。
気が付けば、その巡業でたくさんの出会いと感動があり、最後の締めを終わったころには「祭りって最高!」って叫んでいました。
ケーブルテレビのインタビュー
祭りが初心者の私が荒々しいおっさんたちの中にいるとケーブルテレビのカメラマンにロックオンされました。
神輿を担いでいる時も、カメラが狙っているのがわかったから下を向いていました。
すると、カメラは下から覗き込むようなアングルで私を撮影し始めました。
私はもう開き直ってカメラを意識せず楽しむことにしました。
休憩中にはインタビューまで受けてしまいました。
つい最近まで祭りを否定していた男がインタビューなんて受けたら何を言い出すか自分でも怖かった。
私はそのインタビューで「祭りの良さは参加しないと理解できない」とか「真剣に取り組んでいるからこそ感動する」とか後で考えたら偉そうにしゃべりすぎていました。
その放送は、近所の人がたくさん見ていたようで、私のことを深く知らない人は「祭り男」にしか見えないようなことも言っていました。
最後に
インタビューの中でも答えたし、この記事を読んでわかったと思いますが、祭りって見ているのと参加しているのとでは全く違う世界があります。
地域によっては参加するのが難しいこともあるかもしれませんが、今は少子化で祭りに参加できる人が少なくなってくる傾向にあるはずです。
いつも見学している祭りに、ちょっと参加することで新しい自分を見つけることができる可能性があるので、是非勇気をもって祭りに参加してみてください。
祭りに参加すると、神輿を担いだり巡業のために歩き回ったり大きな声も出すので、かなりの体力を消耗させますが、それ以上の価値があると私は言いたい。